「あれ持ってきて」の「あれ」の名前が出てこなくて、口ごもってしまい「えーと、えーと、あれだよ。あれ」とお互い苦笑い。かと思えば「今なにをとりに来たんだっけ? 」とちょっと前まで頭の中にあったことがすっかり抜けてしまう。そんなことが続くと、少し情けなくなったり、年のせいだと諦めたりしていませんか?
でも、大丈夫です。なぜなら脳は、いくつになっても鍛えることができるからです。そして食べ物の中には、脳の健康維持につながるものがたくさんあります。
今回は脳に良い食べ物やレシピ、食べ方のポイントをご紹介します。脳活につながる食べ物で、毎日の食事から脳の健康維持をはじめましょう。
脳活に有効な食べ物(ブレインフード)とは
脳を最高のパフォーマンスで働かせるには、多くの栄養素が必要です。体内で作られるものもありますが、食事からとらなくてはならないものもあります。
そして、そういった栄養素を含み脳の働きをよくする効果が期待されている食べ物を「ブレインフード」といいます。
ブレインフードが脳にもたらす効果
1日に体全体で消費するエネルギーのうち20~25%を脳が消費します。脳のパフォーマンスを維持するためには、エネルギー源となるブドウ糖を食べ物から摂取する必要があります。その際、ビタミンやミネラル、抗酸化物質やその他の栄養素も一緒に幅広く摂取するのが理想的です。
ブレインフードを摂取することで体内にさまざまな形で効果をもたらし、その結果、脳の健康状態を維持することが期待されます。
主なブレインフード
●青魚
サバ・イワシ・サケ・カツオ・サンマなどといった青魚には、オメガ3系脂肪酸のDHAやEPAが多く含まれています。
DHAやEPAは脳と神経細胞の構築に使われ、学習力や記憶力の維持に必要な栄養素です。認知症の予防に役立つともいわれています。
●貝類
カキ・ホタテ・アサリなどの貝類は、脳の健康を維持するために重要な亜鉛が豊富です。
亜鉛は神経が働くのに欠かせない栄養素で、たんぱく質の生産や脳細胞の成長を担っています。記憶に深い関係のある海馬に多く存在し、記憶の形成や感覚伝達など脳機能を調整する役割があります。
●ナッツ類
くるみやアーモンドなどのナッツ類には抗酸化作用のあるビタミンEが豊富に含まれ、脳の老化防止や脳の働きを維持する効果が知られています。
特にくるみには、体内でDHAに変化するαリノレン酸が多く含まれているため、脳の神経細胞を活性化させる働きがあります。
●ベリー類
ブルーベリーやいちご、ブラックベリーといったベリー類には、抗酸化物質が豊富に含まれています。脳の疲労感を軽減する効果や記憶力の低下を予防する働きがあり、集中力や判断力などを上げるともいわれています。
●アマニ油、オリーブオイル
アマニ油には細胞の若返りを助ける効果もあるビタミンEやDHA、EPAなどのオメガ3系脂肪酸を多く含んでいます。
また、オリーブオイルにもビタミンEや、動脈硬化を抑制する作用のあるポリフェノールが豊富に含まれており、オレオカンタールという成分に認知症予防の効果が期待されていることから、注目が集まっています。
●卵
卵の黄身にはDHAやEPAなどのオメガ3系脂肪酸と、情報伝達に関わるリン脂質が多く含まれます。
さらに卵には、記憶力の維持に役立つコリンや、神経の処理速度を向上するゼアキサンチンのほか、脳の健康に欠かせない栄養素がたくさん含まれています。
●大豆
大豆や豆腐・豆乳などの大豆製品には、記憶力や集中力を高めるレシチンが多く含まれます。抗酸化物質であるポリフェノールも含まれており、加齢による認知能力低下の予防も期待できます。
●カカオ
チョコレートの原材料であるカカオには、脳をリラックスさせたり細胞の老化を防止したりする抗酸化物質・テオブロミンが含まれます。また、学習力と記憶力を高める抗酸化物質・フラボノイドも多く含んでいます。
チョコレートでこの効果を得るには、カカオ含有量80%以上の高カカオチョコレートを選びましょう。
●緑黄色野菜
ブロッコリーやホウレン草などに多く含まれるビタミンKは、記憶力の維持に効果があるといわれています。
またトマトに多く含まれる抗酸化物質・リコピンは、脳の老化防止に役立つともいわれ、記憶力の低下や認知症を防ぐ効果が期待されます。
●バナナ
バナナには脳のエネルギー源となるブドウ糖が含まれています。ブドウ糖は特に記憶をつかさどる海馬と密接な関係があるため、摂取すると記憶力がよくなるといわれています。
また、バナナに含まれるトリプトファンが、脳を健康に保つのに大切な睡眠の質を上げるとされています。
●アボカド
アボカドは世界一栄養価の高い果物に認定されるほど、不飽和脂肪酸やビタミン類、ミネラルなどさまざまな栄養を多く含んでいます。
なかでもオメガ9系脂肪酸であるオレイン酸が豊富で、脳の健康を保つ効果や、血液をサラサラに保つのに役立つといわれています。
脳活に有効な食べ物(ブレインフード)を使ったレシピ
ブレインフードを組み合わせたレシピをいくつかご紹介します。
サバと白菜のトマト煮
レシピ作成者:料理研究家・検見﨑聡美 / 撮影:島﨑陽子
<材料>(1人前)
・サバ水煮缶詰 半缶
・白菜 2~3枚
・トマトカット缶 100g
・ロリエ 半枚
・赤唐辛子 1本
・オリーブオイル 小さじ1
・塩 少々
・ドライパセリ 少々
<作り方>
①鍋にオリーブオイル、ロリエと半分にちぎった唐辛子を入れ、弱火にかけます
②香りが立ったら、白菜を大きめのざく切りにして加え、サバ缶を缶汁ごと加えます
③トマト缶をひろげてのせ、ふたをして中火にし、煮立ってきたら少し火を弱め、20~25分蒸し煮にします
※少ない水分で蒸し煮にするので、焦がさないように様子をみて、適宜、湯を足します
④白菜がくったりとしたら、全体を混ぜ、塩少々で味を調えます
⑤盛りつけて、パセリをふります
※白菜のほかに、キャベツやカリフラワーなどの旬の食材でも、同様においしくつくることができます
春菊とブリのクルミ白あえ
レシピ作成者:料理研究家・検見﨑聡美 / 撮影:島﨑陽子
<材料>(2人前)
・春菊 100g
・ブリ(刺し身用) 50g
・クルミ 10g
・木綿豆腐 150g
・しょうゆ 少々
・砂糖 大さじ1
・塩 小さじ1/4
<作り方>
①春菊は色よくゆで、冷水にとって冷まし、水気を絞り、長さ3センチに切ります
②ブリは幅5ミリに切り、しょうゆを絡めます
③すり鉢にクルミを入れてすり潰し、豆腐、砂糖、塩を加え、滑らかになるまですり混ぜます
④春菊、ブリを加え、あえます
※春菊はホウレンソウや小松菜でも代用できます
アボカドと豆腐のゴマ風味ソースかけ
レシピ作成者:料理研究家・渡辺あきこ / 撮影:渡辺和俊
<材料>(2人前)
・アボカド 1/2個
・木綿豆腐 1/2丁(150g)
・ネギ 8センチ
・香菜 3本
・サラダ油 小さじ1/2
★ソース用)
・しょうゆ 大さじ1
・酢 小さじ1/2
・砂糖 小さじ1/4
・すり白ゴマ 小さじ1
・ゴマ油小さじ2
※アボカドは皮全体が黒くなっていると熟れています
<作り方>
①アボカドに縦にぐるりと切り込みを入れ、両手でひねって二つに分け、種をとります
②皮をむき幅1センチの半月切りにし、変色しないようにサラダ油をまぶします
③ネギは縦に切り込みを入れ、中の芯はみじん切りにし、白いところは長さを半分に切り、せん切りにして水につけます
④香菜は長さ3センチに切ります
⑤しょうゆ、酢、砂糖、すり白ゴマ、ゴマ油を混ぜ、ネギのみじん切りを加えてソースを作ります
⑥豆腐は幅1センチに切り、水気をきってアボカドをはさみ、皿にのせます
⑦ソースをかけ、せん切りのネギと香菜をのせます
出典)朝日新聞デジタル「料理メモ」
https://www.asahi.com/culture/food/ryorimemo/
さまざまな食材を使ったレシピの検索ができます。ご覧になるには、朝日新聞デジタルの会員登録(無料会員以上)が必要です。
脳活の効果を高めるための食べ方のポイント
いかに脳の働きを高める食べ物でも、ただ食べるだけでは効果が発揮されないことがあります。さらに食べ方次第では逆効果になることもありますので、次のポイントに気をつけてください。
効果を発揮させるにはしっかり水分もとる
水は体内で重要な役割を果たすため必要不可欠です。水分が不足すると、疲労感やめまいが起きる可能性もあります。
こまめな水分補給を心がけましょう。
糖質・血糖値に注意する
血糖値の乱高下が続くと、集中力の低下や眠気、イライラなどの原因になります。血糖値の乱高下は、糖質の中でも消化吸収の早い「単糖類」と呼ばれるブドウ糖や果糖を摂取することで起こります。
血糖値を穏やかに上昇させるためには、ゆっくりと消化吸収されるものから食べることがポイントです。食物繊維やたんぱく質など消化に時間のかかるものと組み合わせるとよいため、まず野菜からゆっくり食べるように意識しましょう。
ブレインフードだけでなくバランスのとれた食事をとる
ブレインフード単体を食べるだけでは、効果はあまり発揮されません。脳の健康を維持するには、バランスのよい食事をとることが大切です。
たとえば和食もよいですが、野菜や果物、豆類、全粒穀物、魚介類、オリーブオイルで構成されている地中海料理が世界的にも注目されています。
まずは難しく考えることなく、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。
よく噛んで食べる
よく噛(か)んで食べることは、血糖値の上昇の抑制になります。さらによく噛むことが認知機能の維持・改善につながるともいわれています。
なお、歯の本数が少ないと認知症のリスクが高いという研究結果もあるので、食後は歯ブラシだけではなく歯間ブラシも使い、しっかりケアしましょう。
脳活に有効な食べ物で認知症予防
認知症の原因と予防
認知症全体の約6割を占めているアルツハイマー型認知症の原因は、遺伝的なもののほか、食事や運動、睡眠、ストレスなどの要因による生活習慣病との関連も示唆されています。
そのため、認知症予防には食生活をはじめとする生活習慣を見直し、改善することが重要となります。アルツハイマー型認知症の発症リスクの約4割の要因は、こういった努力で変えられることがわかっているのです。
認知症予防に効果的な食べ物と食べ方
ブレインフードとしても紹介した青魚やオリーブオイルなどのほか、赤ワインもよいといわれています。赤ワインにはポリフェノールだけでなく、認知症予防の効果があるとされるレスベラトロールも含まれています。ただし、飲みすぎには注意し、楽しく飲める程度に抑えるようにしてください。
食べ方としては、次のようなことに注意しましょう。
●バランスの良い食事をとる
前述のように、なにかひとつの食品だけ食べても効果は期待できません。栄養素をしっかりと脳へ届けるため、野菜を中心に魚や肉、果物とバランスを意識して食べましょう。
●糖のとりすぎに注意する
ブドウ糖が脳のエネルギー源とお伝えしましたが、糖のとりすぎは認知症のリスクとなる糖尿病を引き起こすおそれがあります。とりすぎには注意し、ごはんを玄米に変える、食べる順番を変えるなどの工夫をしましょう。
●適正体重をキープする
肥満は認知機能の低下を招くといわれています。食べすぎには注意しましょう。BMI(体重kg ÷ (身長m × 身長m))18.5~25を目安に体重管理することをおすすめします。なお、70歳を過ぎたらダイエットよりも筋肉量の維持を優先しましょう。
●塩分のとりすぎに注意する
高血圧の状態が続くと、脳梗塞(のうこうそく)や脳出血を引き起こすおそれがあります。脳梗塞で脳のすみずみまで血液が届かず機能しなくなると、脳血管性認知症のリスクにつながります。そのため、まずは塩分を控えて高血圧を予防しましょう。
認知症のリスクを上げる可能性がある食べ物
マーガリンやショートニングなどに含まれるトランス脂肪酸や、ラードや背脂などに含まれる飽和脂肪酸は過剰にとると、動脈硬化を引き起こします。
動脈硬化が進行すると脳梗塞、ひいては認知症の発症リスクにつながります。そのため、食べ過ぎにはくれぐれも注意しましょう。
バランスの良い食事で楽しく脳活しましょう
脳の働きを高める食べ物も、それ単体では効果を期待できないとお伝えしました。
また、「おいしい」「うれしい」「たのしい」といったプラスの感情は脳活に有効です。
可能であれば家族や親しい人と食卓を囲み、食材のいいとこどりをしつつバランスを考えた食事で、脳の健康を維持していきましょう。
(取材・文 原幸代)
監修:瀧靖之
瀧 靖之(たき・やすゆき)
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長 東北大学加齢医学研究所教授 医師 医学博士
東北大学加齢医学研究所及び東北メディカル・メガバンク機構で脳の MRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにしてきた。読影や解析をした脳MRIは、これまでにのべ16万人以上に上る。 10万部を突破するベストセラーの「生涯健康脳」(ソレイユ出版)、「賢い子に育てる究極のコツ」(文響社)をはじめ、「回想脳」(青春出版社)など著書多数。NHK「NHKスペシャル」「あさイチ」などメディア出演も多い。東北大学発スタートアップ 株式会社CogSmart代表取締役。
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