牛乳や小麦、ピーナツをはじめ、特定の食品を摂取するとじんましんやせきなどが出たり、命に関わったりする食物アレルギー。その子供と家族のサポートやアレルギーの有無に関係なく過ごせる居場所づくりなど、食物アレルギーを持つ人々の生活の質(QOL)向上を目指した活動に取り組むのが認定特定非営利活動法人「FaSoLabo京都」(京都市中京区)だ。創設者で理事の小谷智恵さん(54)には団体の歩みを、事務局のメンバー粟絵美さん(39)や同法人の学生アルバイトだった鷲裕一さん(23)、鋤崎理子さん(23)には活動への思いを聞いた。【まとめ・日高七海】
きっかけは長男、一人で活動スタート
小谷さん 長男が重い食物アレルギーで、今思うと私自身、育児ノイローゼのような状態でした。周囲の心配もあり保育園を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。
何カ所か訪ねた中で、食物アレルギーの子供を受け入れている園と出会い、「今まで頑張ってきたね」と声をかけてもらいました。「頑張れ」と言われたことはありましたが、褒められたことはなかったので、大泣きしました。仕事をしていなかったため、入園はできませんでしたが、園の方が福祉事務所などに掛け合ってくれて、週に何回か通えるようになりました。
活動は一人で始め、体験談やレシピなどを紹介するニュースレターを毎月発行しました。置いてもらおうと京都市内の保健所に行きましたが、初めは取り合ってもらえないこともありました。でも、「読んだよ」などと言ってもらえるようになり、次第に全ての保健所が置いてくれるようになりました。ニュースレターを読んだ同世代の母親らの声もあり、活動の幅が広がりました。
当初は同世代の子供たちと一緒に遊ぶことが難しかったこともあり、「自分たちだけの居場所がほしい」と活動していました。しかし、2015年に同市の委託を受けて食物アレルギーに配慮した「つどいの広場」が開所した時、参加者から「アレルギーがある子もない子も一緒の場所にしてほしい」と言われました。活動を始めた頃とのニーズの変化を感じました。
また、これまで親に寄り添って活動してきたことが、子供たちにとってはどうだったかや、メディアでも食物アレルギーのしんどさや危険性ばかりが伝えられていると、気付くようになりました。
そんな中、食物アレルギーの子供たちが自身のアレルギーと付き合い、前向きに生きている姿を目の当たりにし、「次の世代の子供たちが時代のニーズに合った方法で、情報を発信したり、自らの思いを伝えていったりする社会になった方が良いのでは」と思うようになりました。
食物アレルギーのマイナス面を伝えることは終わりにしたい。そして、何が何でも治さなくていいと、食物アレルギーでもなんともないよ、という社会になれば良いなと思います。
多様な考えに触れ、意識変化
粟さん 私は食物アレルギーを持つ子供の保護者です。団体の存在は知っていましたが、積極的に何かについて行動していないと関わってはいけないのかと思い、しんどい時に「助けて」と言えませんでした。でも、実際は身構える必要は全くなく、「もっと早く助けてと言えたらよかった」と思いました。
京都は地蔵盆など地域の行事も多いですが、アレルギーの聞き取りは、あまりありません。以前は行事の時などに「食物アレルギーに対応してほしい」となかなか伝えられませんでした。
ですが、大事なのは子供が楽しくその場に参加するための方法を一緒に考えることで、「素直な気持ちを言ったらいいんだ」と思うようになりました。
活動で多様な考え方に触れることで生活の中での意識も変わり、少し楽になりました。こういう団体に助けを求められない人に「大丈夫だよ」と伝えられたらと思っています。
鷲さん 大学進学を機に京都へ来ました。一人暮らしで頼る相手もいない中、母の友人の紹介で法人を知りました。昔は食物アレルギーに悲観的で、アレルギーを持つ自分が嫌いでしたが、活動を通して自分自身を受け入れられるようになったり、「自分にできることはないか」と考えたりするようになりました。
就職活動でも、食物アレルギーに関することがしたいと思ったこともありましたが、アレルギーとは関係なく自分がやりたいことをやろうと、全く違う仕事を選びました。でも、就活の時に食物アレルギーのことを意識できたのは、法人の活動があったからです。
最終的には、こういう団体がなくなってもいいと考えています。食物アレルギーに身構えなくていい仕組み作りや、特別視されない世の中になれば良いなと思います。
鋤﨑さん 私は社会人になる前に外食が増えたり、友人と出かけることが増えたりする中でアレルギーを心配するようになりました。法人の年間報告などを行う「オープンキャンパス」への参加を機に、活動を始めました。
それまで自分の中に「食物アレルギーの当事者」の視点しかありませんでしたが、活動を通し、想像以上に世の中の制度が整っていたり、まだまだと感じる部分があったりすると知りました。また、保護者側の気持ちを知ることで親のありがたみを感じたり、アレルギーの治療に踏み切ることができたりしました。
今は広告代理店で働いています。食品メーカーへの就職も考えましたが、大学での学びを生かし、マーケティングなどがしたいと思いました。将来的には直接的であろうと、間接的であろうと、食物アレルギーの当事者を支援することに携わっていきたいと考えています。
FaSoLabo京都
2005年、「食物アレルギーを持つ子供とその家族のQOL(生活の質)の向上」を目的に任意団体「ぴいちゃんねっと」として設立。09年法人化。アレルギーに悩む家族の居場所づくりのほか、児童館など子供を受け入れる施設の職員らへの研修の実施、シンポジウムや講演会などの開催に取り組んでいる。主に粟さんらスタッフ4人で運営しており、メンバーを募集中。電話075・252・5088。
「食物アレルギーでもなんともない」社会へ 前向きに発信 京都 - 毎日新聞 - 毎日新聞
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