第39回日本小児臨床アレルギー学会共催 市民公開講座
「知りたいこどものアレルギー」レポート(全10回)
①食物アレルギーを正しく知って正しく怖がる
2023年7月15日(土)~16日(日)、福岡国際会議場にて第39回日本小児臨床アレルギー学会学術大会が行われ、その中で、16日に環境再生保全機構(ERCA)主催による市民公開講座「知りたいこどものアレルギー」(座長:昭和大学小児科学講座今井孝成教授)が開催されました。
この公開講座にはこどものアレルギーに悩む一般の方たちも参加することができ、「食物アレルギー」や「アトピー性皮膚炎」、「小児気管支ぜん息」といった3つのテーマに沿いながら、各々で活躍される専門医が講演や個別ミニ相談を行いました。今年は199名もの参加者が集まり、盛況のうちに幕を閉じました。
今回の連載コラムでは、各テーマの講演の概要と、事前に寄せられた質問に対する専門医の回答を、全10回にわたり紹介していきます。
プログラムの1番目は食物アレルギーについて、神戸市立医療センター中央市民病院小児科医長の岡藤郁夫先生が登壇されました。第1回目では、岡藤先生にお話いただいた講演内容をご紹介します。
神戸市立医療センター中央市民病院小児科医長 岡藤郁夫先生
私は普段の診察を通して、患者さんやご家族が食物アレルギーについて難しく考えすぎていると感じることが多いです。本当に色々と対策や工夫をされている中で、困り果てて私たちのところに相談に来られます。そんな時は「もっと気楽に考えて」と声がけをしています。基本的な知識をちゃんと身につけて正しく知ったら、正しく怖がることができるのです。今回は、その一助になるよう、大事なところをピックアップしてお話をします。
食物アレルギーの患者さんが困っていることとは?
いま話題になっている対話型AIに「食物アレルギーの患者さんがどんなことに困っているのか」を聞いてみると、以下の5つを挙げてきました。
① | 食事の選択 | 食事の制限がある中で、特に外出先などでどのような物を食べたらよいのかがわからない |
---|---|---|
② | 隠れた成分への誤認識 | パッケージ製品の成分表を読んでも、隠れたアレルゲンを完全に認識するのは難しい場合があり、食品表示の正しい見方がわからない |
③ | 誤解と不理解 | 周囲の人が食物アレルギーを理解してくれない |
④ | 緊急時の対応 | 突然のアレルギー症状や発作が起きた場合どうすればよいか |
⑤ | ストレスと不安 | 今後のアレルギーの進行や社会生活への不安 |
③の「誤解と不理解」では、患児の祖父母が「昔はこんなことをしなかった」と言うことで、特にお母さんがつらい目にあうことが多いようです。そんな時は「食物アレルギーを正しく知ろう(※1)」のようなパンフレットを一緒に見ながら、食物アレルギーや食品表示について知識を深めることが大切です。
どんな医師と出会うか?~医療機関の選択~
対話型AIが挙げた5つの項目以外に、私が一番大事だと思うのが「医療機関の選択」です。つまり、「どんな医師と出会うか」が患者さんにとって極めて大事なポイントになります。
医療機関の選び方としてもっともスムーズな方法は、まず食物アレルギー研究会のホームページ(※2)で、食物経口負荷試験を実施している病院を探して検査を行い、次に担当医に大まかな治療方針を立てていただく。そして、患者さんにとって身近で行きやすい病院を紹介してもらうことが良いと思います。
医師とのコミュニケーションで大事なことは
食物アレルギーの診断では問診こそが有力な情報源になります。患者さんやご家族のお話を聞いて、「こういうアレルギーではないか」と考えて診察を進めるため、医師にとって患者さんからの情報が全てです。血液検査は診断に対する答え合わせをするイメージです。
また、受診する時には、簡単でも良いので今まで何を食べてどういう症状が出たかや、どういうタイミングで症状が出たかなどを伝えることが医師の診察の助けになりますので、しっかりとメモしたものを持参するとよいでしょう。
食べられる量を正しく見極めて、過剰な除去をしない
食物アレルギーの治療の基本である原因食品を除去する食事療法についてお話をします。ポイントは、原因食物を正しく見極めた「必要最小限の除去」になります。「必要最小限」とは、例えば「卵白はダメだが、卵黄は食べられる」のであれば卵黄は食べてみる、というような食べ方です。また、「加熱した卵白2グラムまで食べられる」ということであれば、それくらいまでは食べてみましょうというように、過剰な除去をしないことがポイントになります。
患者さんの中には1回でもアレルギーの症状が出てしまうと、どうしてもその原因食物を食べることをやめてしまう方がいますが、安全に食べられる量であれば、食べておくことが大事です。「なかなか自分では勇気が出ない」という時は、医師に相談して食物負荷試験をしてみたり、栄養士さんに栄養指導をしてもらったりすると良いでしょう。
食物アレルギーに関する研究や国・自治体の取り組み
食物アレルギーの研究を1つご紹介します。離乳初期から少量の卵を食べることによって卵アレルギーを予防できるという研究結果が国立成育医療研究センターから発表されました。生後4~5ヶ月の時点でアトピー性皮膚炎と診断された赤ちゃん121名について、離乳初期である生後6ヶ月頃から少量の固ゆで卵を食べさせる群と食べさせない群とで分け、その経過を追ったところ、1歳時点での卵アレルギー発症を8割予防したというものです。卵が怖いからといって、食べさせる時期を遅らせないようにしましょう。実際に、私がいる神戸市の乳幼児検診では、赤ちゃんに湿疹がみられる場合は、「食物アレルギーが心配な保護者のための離乳食の基本」についてポイントをまとめたものを配布しており、「こどもにかゆみを伴う湿疹がある場合は、早期に湿疹の改善を目指しましょう」「離乳食の開始や進行を遅らせる必要はない」といったことをお伝えしています。
また、皆さん困っていらっしゃるのが、外食や中食です。消費者庁による「外食・中食を利用する時に気をつけること(※5)」というパンフレットがあるので紹介します。このパンフレットでは、外食・中食を利用するときに気を付けること、誤食の事例などが紹介されていますので、ぜひ身近な人と一緒に読んでみてください。
「助けて」と言えることは大事なこと
最後に、「受援力」についてお話します。患者さんやご家族の中には、孤軍奮闘されていて、頑張り過ぎている方も多くいらっしゃいます。大事なのは困っている時にちゃんと「助けて」と周囲に伝えること。そのための心構えやスキルを身につけることも大切です。
たとえば、「できるだけ丁寧で綺麗な言葉」や「笑顔」、「ありがとうございます」のような感謝の言葉、「『すみません』ではなく『助かります』」というように、すこし言葉を変えるだけで相手の印象も変わります。「断られた時も『フィードバック』と考える」、そのような心がけが大事だと思います。キーワードは「感謝と笑顔」です。「受援力ノススメ(※6)」というパンフレットもぜひご覧ください。
(※6)吉田穂波先生ホームページ「受援力ノススメ」パンフレット(別ウィンドウで開きます)
出典:平成27年度厚生労働科学研究費「妊産婦・乳幼児を中心とした災害時要援護者の福祉避難所運営を含めた地域連携防災システム開発に関する研究」報告書(研究代表者:吉田穂波)より引用(URL: https://giftfor.life/tool/)
次回以降は、岡藤先生のもとに寄せられた質問と、その回答を3回にわけてご紹介します。
第39回日本小児臨床アレルギー学会共催 市民公開講座「知りたい ... - 環境再生保全機構
Read More
No comments:
Post a Comment