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Thursday, May 18, 2023

腸内細菌と食生活(上) 食物繊維が腸内細菌を多様化 バランスの ... - 朝日新聞デジタル

 私たちの身体に共生する、星の数ほど多いマイクロバイオータ(微生物叢〈そう〉)に関する研究の最前線を紹介している連載の最後は、健康をもたらす腸内細菌叢(フローラ)を実現するにために、自分の意志で変えやすい食生活に焦点を当て、2回にわたって紹介します。

腸活メニュー
山口県周南市の道の駅「ソレーネ周南」にあるレストランで提供されている、腸活をテーマにした定食。ご飯とみそ汁はおかわり自由、デザートも付く

 山口県周南市にある道の駅「ソレーネ周南」のレストランでは、「周南食材で腸活!」をテーマにした定食を提供しています。地元の鹿野高原豚のヨーグルト味噌焼きに、地元野菜の小鉢やサラダ、コンニャク料理などがつく「周南美腸定食」、地元産麦みそを使ったチーズソースハンバーグに地元野菜料理がたっぷりつく「周南美腸ハンバーグ定食」です。 

 メニューが開発されたきっかけは、周南市や市立新南陽市民病院、新南陽商工会議所、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN:ニビオン)が2017年に連携協定を結び、市民の腸内細菌の種類や構成、食生活、健康状態などについて調査を始めたことでした。

 2017年度の調査では、市役所の職員約90人を調べました。NIBIOHNが集めている全国規模のデータと比較すると、周南市民の腸内細菌叢のバランスは、たんぱく質や動物性脂質を多く食べた時に増える種類の細菌が多く、野菜などに含まれる食物繊維を多く食べた時に増える種類が少ないことがわかりました。

 市民の野菜の摂取量は、全国平均の8割程度でした。緑黄色野菜が全国平均より多い一方で、緑黄色野菜以外の野菜の摂取量が少ない傾向という特徴がありました。食事内容から計算した、カルシウムやビタミンC、カリウムといった栄養素の接種量は全国平均と同じぐらいでしたが、食物繊維は男女ともに全国平均の7割程度しかとれていませんでした。

  2018年の調査では、参加者の緑黄色野菜以外の野菜の摂取量が約1割増えました。なかでも、2年連続で調査に参加した市民73人のうち37人の食物繊維摂取量が増えていました。

山口県周南市民と全国平均の野菜摂取量の比較
山口県周南市民と全国平均の野菜摂取量の比較 全国平均は2018年度のデータ、周南市民は黒字が2017年度、赤字が2018年度のデータ(NIBIOHN2019年2月8日、周南市役所における発表資料より)

 周南市のプロジェクト関係者たちは、野菜の摂取量の増えた人がいたことよりも、前年度に野菜や食物繊維の摂取量が少ないことを注意喚起したにもかかわらず、摂取量が変わらないばかりか減った人がいる点が気になりました。「いちいち意識して食べなくても、野菜や食物繊維を多くとれるようにする方法は無いか」と考える中で編み出されたのが、腸活を目指した定食の提供です。また、地元の食品企業が、特産の麦みそを使って食物繊維を多く含む肉味噌を開発しました。この麦みそは、道の駅で提供する料理に使われているだけでなく、販売もされています。

 食物繊維の摂取量の多さと健康状態の良さには相関関係があるらしいことは10年以上前から様々な研究グループによって報告されてきました。ただ、食物繊維がなぜいいのか、詳しいことがわかってきたのは比較的、最近のことです。

 ビタミンやミネラルは私たちの体に吸収され、様々な働きをサポートしますが、食物繊維の場合、ヒトの消化酵素では消化されないため、小腸で消化・吸収されず、そのまま大腸まで達します。そして、食物繊維をエサとする腸内細菌を介して、健康にいい影響がもたらされています。

 食物繊維が腸内細菌を介していい影響をもたらすメカニズムには大きくわけて二つあります。一つは、食物繊維を多くとると、腸内細菌の構成が多様化するという点にあります。もう一つは、食物繊維を「エサ」にする腸内細菌が産生する「短鎖脂肪酸」と呼ばれる物質が、健康状態を良好にする効果があるようだとわかってきています。

 正確にはまだ確定していませんが、腸内細菌の種類は約1000種類あると考えられています。1人の腸内に何種類がどのような構成でいるのかは、個人差や地域差がありますが、腸内細菌の種類を問わず、種類が偏った構成の腸内細菌叢より、多種類の菌が偏らずに存在する構成の腸内細菌叢の方が、健康状態にいい影響をもたらすという報告が複数あります。逆に、腸内細菌叢の構成が偏っている状態は「ディスバイオーシス」と呼ばれ、様々な病気の原因となっている可能性が指摘されています。

腸内細菌は多様性が重要
(NIBIOHNの國澤純ヘルス・メディカル微生物研究センター長提供)

 色々な種類の腸内細菌が生息する環境を作るには、バランスの取れた食事をすることが大切です。特に、日本人に不足しがちな食物繊維を十分にとることが必要だとされています。

 NIBIOHNは2020年、兵庫県加東市や神戸市の食品企業と連携協定を結び、市役所の職員60人に2カ月間毎朝、食物繊維が1食あたり3.8グラム含まれる、蒸したもち麦を食べてもらいました。食べ始める前と後で、食物繊維接種量は1日当たり3グラム増え、さらに多くの人で腸内細菌の種類の多様性が増していました。腸内細菌の種類が1000種類を超えている人は、もち麦を食べる前は3%しかいなかったのが、2カ月間食べた後には17%に増え、全国平均の12%よりも高い割合の人がより多様な腸内細菌を持つようになりました。

 ただし、同じようにもち麦を食べても、腸内細菌の種類が増えない人や、逆に減った人もいました。「食物繊維を摂取しても腸内細菌の種類が増えない人に何かアドバイスできるよう、現在、個人差が生じる要因を解析中です。体質的な差、もち麦以外に何を食べているのか、食生活以外の生活習慣など、色々な可能性が考えられます」とNIBIOHNヘルス・メディカル微生物研究センターの國澤純センター長は話します。

もち麦を継続的に食べた後の腸内細菌数の変化
もち麦を継続的に食べた後の腸内細菌数の変化 (NIBIOHNの國澤純ヘルス・メディカル微生物研究センター長提供)

 腸内細菌がつくる物質で、健康にいい影響を与えると報告されているのは、酢酸や酪酸、プロピオン酸です。いずれも短鎖脂肪酸の仲間です。短鎖脂肪酸には多くの種類があり、働きも様々です。腸や体のエネルギー源となり、腸のぜん動運動を促進するなどして消化や吸収、排便を促進します。肥満を抑制したり、炎症を抑えたりする働きもあり、さらには病原菌や腸内細菌のうちの悪玉菌を減らす効果もあります。

 短鎖脂肪酸も腸内細菌叢と同じように、特定の種類のものばかりが偏ってつくられているより、多様性のある方が好ましいと考えられています。具体的にどの短鎖脂肪酸がどれぐらいつくられるといいのかなど、詳しいことはまだわかっていません。全体的に短鎖脂肪酸の多様性を実現するには、食物繊維を十分にとるだけでなく、色々な種類の食品をバランス良く食べ、多くの種類の腸内細菌が生息する腸内環境を作ることが重要です。

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  • 大岩 ゆり
  • 朝日新聞社科学医療部専門記者(医療担当)などとして医療と生命科学を中心に取材・執筆し、2020年4月からフリーランスに。同社在籍中には英オックスフォード大学客員研究員や京都大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師を兼任。主な著書に『最後の砦となれ~新型コロナから災害医療へ』、主な訳書にエリック・カンデル著『芸術・無意識・脳』(共訳)がある。

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