国立病院機構相模原病院臨床研究センター長
アレルギー性疾患研究部部長
海老澤 元宏 先生
食物経口負荷試験で「安全に食べられる範囲」を正確に診断
「食物アレルギーの診療の手引き2005」「食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009」などを統合し「食物アレルギー診療ガイドライン2012」にまとめられ、食物アレルギー診療の標準化が進められました。その後も何度か改訂版が発表され、その都度、新しく、より安全で、医学的に信頼できる食物アレルギーの管理法が示されてきました。食物アレルギーの管理は、かつても今も、アレルゲンを正しく診断した上で、原因食物を完全に除去するのが国際標準です。
一方日本では、2000年から厚生労働科学研究費(研究代表者:海老澤元宏)で食物経口負荷試験の全国ネットワークを構築しデータを集め、日本小児アレルギー学会社会保険委員会で全国実態調査が行われ、国の後押しもあり2006年には入院で、2008年からは外来でも、食物経口負荷試験が健康保険で実施できるようになりました。
食物経口負荷試験とは、単回、あるいは複数回、アレルゲンの疑いがある食べ物を摂取してもらい、アレルギー症状が出るかどうかを確認する検査です。原因食物の正確な特定、つまり正しい診断を行って、誤食を防止するとともに、不適切な広範囲の原因食物の除去を是正することなどがその目的です。バランスの取れた栄養が必要な乳幼児期のお子さんに、本来食べられるものまで除去してしまえば、栄養不足を来たしQOL(生活の質)を落とすことにもつながりかねません。
この考えをさらに進めて、たとえ原因食物であっても、食物経口負荷試験などを用いて安全に食べられる範囲を正確に確認し、アレルギー症状を起こさないで食べることが勧められるようになってきました。日本の食物アレルギー管理の考え方は、原因食物の「完全除去」から「必要最小限の除去」へと変わってきたのです。最新の食物アレルギー診療ガイドライン2021では、クリニカルクエスチョン※での推奨において、原因食物を少しずつ安全に食べていくためには、食物経口負荷試験の実施が推奨されると明記されており、このことは国際的な医学雑誌にも論文として掲載されました。日本の食物アレルギー診療は、日本小児科学会の教育研修施設のうち400近くの病院で行われるようになり、食物経口負荷試験の飛躍的な普及により、食物アレルギーで悩む諸外国とは異なる、独自の進化を遂げたのです。
※ クリニカルクエスチョン(Clinical Question):診療ガイドラインの対象となる病気の検査や治療において重要で回答を出すべきだと考えられる課題のこと。
食物アレルギー今むかし②(全4回)|WEB版すこやかライフ - 環境再生保全機構
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