国立病院機構相模原病院臨床研究センター長
アレルギー性疾患研究部部長
海老澤 元宏 先生
重篤な事故を起こさない! 学校等でもきめ細やかな対応を実践
日本の食物アレルギーの社会的対応や診療面での進歩は、2000年頃を境に、急激な変化、進歩を遂げたと、連載第1回目の本コラムで申し上げましたが、学校や保育所でのアレルギー対応は、それより少し遅れてから、徐々に形作られてきました。
2004年、文部科学省が初めて全国の小中高生約1,200万人を対象に各種アレルギー疾患の有病率について調査をしたところ、食物アレルギーが2.6%、アナフィラキシー0.14%との結果が出ました。経緯を少し紹介すると、当初は調査対象をぜん息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎に絞り、同じ質問票で調査しようとしていました。しかしながら、既に学校給食における食物アレルギーの対応や2005年のエピペン®(アナフィラキシーに対する緊急補助治療薬であるアドレナリン自己注射薬)の国内への導入により、学校での食物アレルギー/アナフィラキシーヘの対応が喫緊の課題でしたので、食物アレルギー/アナフィラキシーの調査票を作成し調査に含めるように提案しました。調査から3年後の2007年に調査結果が公表され、2008年に全国の教育機関向けに「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」が作られることになりました。
1年間かけてガイドラインを日本学校保健会で作成する作業が始まり、「学校生活管理指導表」というコンセプトを有識者委員会に提案し、原案を作成しました。更にエピペン®について、現場の教師が自ら注射できない状況にある児童・生徒に代わって注射できるように法的解釈(緊急避難行為)が国で検討されガイドラインに明記されました。
2008年にガイドラインが完成し全国行脚を行い普及啓発活動をしましたが、多くの教育委員会や医師会の学校保健部会からは“時期尚早”という評価を頂きました。しかし、2012年に調布市で起きた小学校5年生の女児の給食でのアナフィラキシーによる死亡事故がガイドライン準拠を進める原動力となり、2014年には文部科学省からガイドラインと管理指導表に基づいて学校が組織として対応すべきという強いメッセージが出され、更に2015年には「学校給食における食物アレルギー対応指針」が公表されました。
かつて、食物アレルギーを持つ児童・生徒には給食を提供しない、宿泊や外食を伴う学校行事や修学旅行に参加させないなど、食物アレルギーへの理解が乏しかった時代を経験した昔の保護者の方からすると隔世の感があると思います。今では学校の教職員がエピペン®の使用法も習得し、食物アレルギーの児童・生徒がエピペン®を学校に携帯して、教職員が緊急対応することも当たり前の時代になりました。
保育所でも2011年、同様に「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」及び「保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表」を導入することができましたが、その過程では学校向けのガイドラインにある管理指導表を基本とした対応と一致させるために、日本保育園保健協議会(現在の日本保育保健協議会)の有識者委員会と調整を重ねました。
学校・保育所での食物アレルギーを含むアレルギー疾患の取り組みについては、以下のホームページからガイドラインをダウンロードできます。
食物アレルギー今むかし④(全4回)|WEB版すこやかライフ|独立行政法人環境再生保全機構 - 環境再生保全機構
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