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Tuesday, December 14, 2021

【コラム】「夕飯、うちに来て一緒に作る?」 スーパー家庭科教諭が取り組む「大人のための食物実習」 - オーヴォ

同僚の高校教員と作った、豚肉のネギたっぷりメレンゲ焼きとナスの豚肉ロールオイスターソース焼き
同僚の高校教員と作った、豚肉のネギたっぷりメレンゲ焼きとナスの豚肉ロールオイスターソース焼き

 弁当作りを通じて子どもたちを育てる取り組み「子どもが作る弁当の日」にかかわる大人たちが、自炊や子育てを取り巻く状況を見つめる連載コラム。高校生に「心」を揺さぶる授業を繰り広げてきた元スーパー家庭科教師の入交享子が、食と人のつながりに思いをはせた。

「夕飯、うちに来て一緒に作る?」

 大阪府立高校の家庭科教諭として、「一緒に料理をして一緒に食べること」がもたらす幸せをよく知る私は、選択科目として2年の「まちづくり」と「生活科学」、3年の「生活文化」を開講。いずれの科目にも食物実習を取り入れていました。特に3年の「生活文化」では、ほとんどすべてが実習という年間30回以上の食物実習をしていたのです。

 受験科目ではないのに、3年生が「生活文化」を取ると決断するのは難しいことです。 それでも、食物実習を通して、幸せな人生を送るための方法、ひいては人を幸せにする心と技を獲得していくことを重視した、全国でも珍しい教育でした。

 高校の若い職員の中に、「毎日の夕飯や弁当が悩みの種だ」という料理に苦手意識を持つ先生がいました。 「夕飯、うちに来て一緒に作る?」と誘うと、「行く、行く」と結婚したばかりの教員二人が反応しました。そこで、自炊のできる中堅の美術教員も誘って、わが家で夕飯を作って食べることになりました。

 食材の買い物を頼み、私は先に帰宅。彼女たちが買ってきた食材をテーブルに広げて、料理を考えました。 ルールはこれです。

「あるもので作る」

「レシピはない」

「シンプルに」

「焼く、蒸す、煮る、あえるの手法を使う」

 作ったのは、ささみの三色焼き、ナスの豚肉ロールオイスターソース焼き、豚肉のネギたっぷりメレンゲ焼き、レンコン・ニンジン・こんにゃくのきんぴら、アサリの酒蒸し、小松菜と薄揚げの炒め煮、ほうれん草のごまみそあえの7品です。

ささみの3色焼き・アサリの酒蒸し
ささみの三色焼きとアサリの酒蒸し
蓮根・人参・こんにゃくのきんぴら
レンコン・ニンジン・こんにゃくのきんぴら
小松菜と薄揚げの炒め煮
小松菜と薄揚げの炒め煮

 出来上がった料理を一緒に食べ始めると、「こんなに簡単にできるんですね」「なんでこんなにおいしいの? 調味料をちょっとしか使ってないのに」と驚きの声が上がりました。

 翌日、自炊のできる美術教師が、「“レシピはない”と言われましたが、自分のためにも文字にしてみました。チェックしてください」とレシピを送ってきてくれました。そのおかげもあって、若い教員たちは、教えた料理をすぐに再現できるようになりました。

 「もっと時間をかけずにおいしく作りたい」と願っていた彼女たちは、それからあっという間に腕を上げていきました。たった一回の調理実習でこれだけの成果が上がることは珍しく、私も感動でした。

 府立高校を定年退職し、非常勤で学校に籍を置く私は、現在ライフワークとして食を通した「まちづくり」に力を入れています。 高校での経験を、子どもたちや先生だけでなく、大人にも届けたいと思って始めたのが「山の自炊塾」です。

 料理に苦手意識を持っている若い農家の人たちと共に、知らず知らずのうちに毎日の料理が楽しくなる空間を育みたい。有機農家の方ですから、SDGsの暮らしを実現すべく今あるものを活用し、みんなで作ることにしました。

 あるとき、「料理するだけでなく、買い物から一緒にしたい」という提案がありました。 みんながどんな食材を選んでいるのか知りたいというのです。調理器具を買う時にも似たようなことがありました。一緒に選ぶことが学びになることに気付いたのです。

 山で畑を始めていたので、「これは畑にある」「あれは畑にある野菜と組み合わせよう」と想像力と創造力を駆使して買い物をする彼ら。若い感性の急成長に、こちらまでワクワクドキドキでした。

 「料理ができないから、自分で作ってもおいしくないし楽しくない。だから作らない」という彼らでしたが、上達するにつれて、みんなで丸一日かけて10何種類もの料理を作るようになり、「作り置きの会」といわれるようになりました。「料理をすると優しくなるってホントだね」「これもあれも我が家の定番になりました」「やっぱり食が一番やな、大事やわ」とうれしい声が聞かれます。

 こうした活動をしていると、食材を余すところなく使うのも当たり前になります。スローフード(ファストフードに対して、その土地の伝統的食文化や食材を大事にすること)、ホールフード(野菜を丸ごと食べるなど、加工や精製を行わないか可能な限り抑えた植物性食品)、サーキュラーエコノミー(循環経済)。これらの横文字が示すものは、日本で昔から大事にされてきたものです。

 食卓と農園をつなげると、優しい気持ちが呼び覚まされます。おいしいものをほおばる幸せが、土を大切にする人に思いをはせさせ、料理をする人への感謝を生む。その思いやりを、「教養」と呼ぶのでしょう。

 そんな「優しい人」を育むことが、多様な人々を包み込む、優しくて温かな「まちづくり」につながると信じています。これからも、「おいしい幸せ」をばらまいていこうと思います。

プロフィール
入交享子(いりまじり・きょうこ)
 1954年福井県福井市生まれ。高校家庭科教諭として、広域通信制高校を経て大阪府立高校勤務。学校設定科目でまちづくり・生活科学・生活文化という講座を開講。府優秀教員表彰受賞。府初の女性指導教諭として全国に講演・研修講師として活動。定年後は茨木市市民活動センター所長としてまちの活動を支援する。


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