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Tuesday, January 31, 2023

「食物依存症」、糖と脂肪が誘発 長期的に健康に影響 - 日本経済新聞

依存症というと、タバコやアルコールなどの薬物を思い浮かべる人が多いだろう。だがもう1つ、成人の14%、子どもの12%が患っている依存症がある。食物依存症だ。

脂肪と糖で私たちを誘惑するぜいたくな料理は、がまんできないほど魅力的に感じられる。長期休暇の時期などは特にそうだ。専門家によると、これは単なる気持ちの問題ではない。

食品に含まれる脂肪分と糖分を増やす傾向は半世紀前から続いていて、今では米国の成人が消費する食品の半分以上が「超加工食品(高度に加工された食品)」になってしまった。こうした食品は、体にある脂肪と糖のセンサーに働きかけ、ドーパミンを放出させるように最適化されていることが多い。すなわち、私たちの生物学的特性を利用して、もっと食べたいと思わせるように作られている。

「アルコールやタバコなど同じように、私たちは、これらの食品が実際に人々の命を奪っていることに気づいていません。これらは避けられる死なのです」と、米ミシガン大学の心理学准教授アシュリー・ギアハート氏は説明する。氏は、「エール大学・食物依存症テスト(YFAS)」による食物依存症の最新の網羅的な「有病率」を医学誌「European Eating Disorders Review」に2022年3月に発表した1人だ。

専門家たちは食物依存症に関する私たちの思い込みを正し、食物依存症を抑制し、人々の命を救うために何ができるのかという新たな問いを投げかけている。

糖と脂肪とドーパミン

食品は私たちの脳に複雑な影響をたくさん及ぼしている。なかでも重要な作用の1つが、ドーパミンという神経伝達物質を放出させることだ。依存性薬物を摂取するときと同様、物を食べるとドーパミンが放出される。一般にドーパミンは快感を高めると思われているが、そうではなく、生存に有利になる行動(栄養価の高い物を食べる、繁殖するなど)を繰り返すよう促しているのだ。ドーパミンが大量に分泌されるほど、その行動を繰り返す可能性が高くなる。

脂肪や糖を摂取すると、口の中のセンサーが線条体(運動や報酬行動に関連する脳の部位)にドーパミンを放出するようメッセージを送る。だが、米バージニア工科大学フレイリン生物医学研究所のアレクサンドラ・ディフェリシアントニオ助教によると、口内だけではなく、腸にも脂肪と糖を感知する第2のセンサーがあり、線条体にドーパミンを放出するよう脳に信号を送るという。

脂肪と糖を多く含む食品は、線条体のドーパミン量を通常の2倍にまで増加させる可能性がある。これは、一般的な依存性物質であるニコチンやアルコールの場合と同じレベルだ。ある研究では、ブドウ糖の摂取によってドーパミン量が1.4倍に、別の研究では、脂肪によって1.6倍に増加することが確認されたが、脂肪の場合は増加し始めるまでに糖より長い時間がかかる。ちなみに麻薬のコカインはドーパミン量を通常の3倍に、覚せい剤のアンフェタミンは10倍に増加させる。

変わりゆく食品

食品が脳に及ぼす影響が明らかになるにつれて、抗いがたいほど魅力的な食品が作られるようになってきた。私たちの体に入る食品は、脂肪や糖など特定の栄養素が多く含まれるようになり、以前より栄養素の組み合わせも多様になっている。その上、非常になめらかな口当たりのアイスクリームなど、食感の工夫が、食べるという行為をより快いものにしている。

昔の食べ物は自然の素材からあまり手を加えられずに作られていた。例えばパイ生地なら、小麦粉とバターから作られていた。対して、工業的に高度に加工された食品は、デンプンや水素添加油脂(硬化油)など、食品から抽出された物質から作られている。人工調味料や人工香料、油と水を混ぜ合わせる乳化剤、食品の形や食感を保つ安定剤などの添加物は、食品をより魅力的にするが、長期的には私たち自身に害をなすものもある。

ディフェリシアントニオ氏のように、こうした超加工食品と、あまり手を加えられずに作られた加工食品を区別するべきだと考えている専門家もいる。その違いを認識することが、食生活に関連する多くの健康問題を回避する第一歩となる。

「私たちは昔から自家製のケーキやクッキーやピザを食べてきました。しかし、1980年代に超加工食品の生産が増えてから、食生活に関連する死亡や病気が増えたのです」とディフェリシアントニオ氏は言う。

ギアハート氏もディフェリシアントニオ氏も、超加工食品には臨床的な基準で依存性があると主張する。いわゆる「速度仮説」によれば、脳に影響を与えるのが速い物質ほど依存性が高い。多くの加工食品は、ドーパミンの放出スピードを最大にするために、あらかじめ消化されたような状態になっている。

さらに、食物依存症が生み出される図式には社会的、心理的な力が関わっていることも見逃せない。加工食品は数世代にわたって、安価で手ごろな食品としてさかんに宣伝されてきた。その結果、加工食品が健康に良くないと知りつつも、ついつい手が伸びてしまう人々が数世代にわたって生み出されている。

「私たちの社会は加工食品が欲しくなる暗示であふれています」とギアハート氏は言う。「ファストフードの看板や自動販売機には非常に強い力があり、見ると空腹でなくても、医者から糖尿病だと言われたばかりでも、体に良くないとわかっている加工食品を食べたくなります。加工食品は至るところにあります。朝の会議でドーナツが出されたり、深夜にピザの広告を見せられたりするので、私たちは常に身構えていなければなりません」

食物依存症の理解の変化と解決策

近年、食物依存症に関する従来の仮定の一部が間違っていたことが明らかになり、専門家たちはこの問題についての問い直しを始めている。

その例が、「離脱症状」と「耐性」だ。これらはかつて、依存症の主要な要素と考えられていた。離脱症状とは、ある物質の使用を減らしたり止めたりしたときに現れる身体的・精神的な不快な影響(不安、吐き気、頭痛など)のことで、食物依存症患者が強迫的に食べ続けるのは、離脱症状を避けるためだと信じられていた。

しかし、ディフェリシアントニオ氏は「実はそうではないのです」と言う。「薬物依存に関する理論の大半が、薬物使用を持続させる原因は(離脱症状の回避ではなく)習慣や渇望にあるとしています」

耐性は、離脱症状のほぼ逆で、ある物質を使い続けると同じ効果を得るために必要な摂取量が多くなる現象だ。食物依存症で言えば、耐性により食べても十分な快感が得られないため、快感を得られるまで食べ続けてしまうというドーパミン不足仮説が有力だった。

「私は、この仮説には問題があると考えています。何を食べてもドーパミンは放出されるからです。ブロッコリーを食べても、腸に栄養が届くので、ドーパミンは放出されます」とディフェリシアントニオ氏は言う。「私たちはドーパミンがもっと欲しいからといってブロッコリーをたくさん食べるようなことはしません」。なお、ドーパミンという報酬を得られる下限の値がある証拠もないという。

研究が進むほど、食品に依存する仕組みをめぐる疑問は増えている。ドーパミンだけではすべてを説明できない。ものを食べることを快感にしているのはドーパミンではないからだ。研究者たちは、別の原因がありうることを示す証拠を発見している。

2012年10月に学術誌「Current Biology」に発表された研究で、ものを食べるとオピオイド受容体が刺激され、快感が増すことが示された。しかし、生体内のオピオイド濃度を測定するのは困難であるため、科学者たちはこのプロセスの仕組みをほとんど解明できていない。

腸の上部にあるセンサーが食べ物の好き嫌いに関わっているのではないかと考えている専門家や、視床下部(体温から空腹感まで、さまざまな機能を調節している脳の重要な部位)の関与を考えている専門家もいる。

研究者たちは、栄養素をどのように組み合わせると、どのくらいの量のドーパミンが放出されるのかも知りたいと考えている。残念ながら、ヒトで研究するには高価なスキャン装置と放射線が必要になる。「同じ被験者に、投与する味や栄養素の組み合わせを変えて20回もスキャンを繰り返すわけにはいきません。できることは非常に限られているのです」とディフェリシアントニオ氏は言う。

食物依存症の問題を解決する方法は明らかだが、容易ではないとギアハート氏は言う。参考になるのは、喫煙を減らすために行われた大きな社会変革だ。私たちはタバコの値段を上げ、宣伝や販売を制限した。食品についても同じようにすればよい、と氏は提言する。

食物依存症に対抗する方法は他にもある。

「依存性食品の摂取をやめられない自分を嫌いにならないでください。こうした食品は私たちの生物学的特性を利用しているのですから、やめるのは簡単ではないのです」とギアハート氏は言う。どんな気分のときに、どんな場所で、どんな時間帯に、その食品が欲しくなるのかを意識するのだ。「それだけで、誘惑された瞬間にできる別の対処法や戦略を立てることができます」

文=ALLIE YANG/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年1月10日公開)

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