冬本番、日に日に日照時間が短くなり、気分が落ち込む“冬うつ”状態になることも……。そこで今回、精神を安定させる脳内物質、セロトニンに注目し、セロトニンの材料となるトリプトファンを多く含む食べ物や、トリプトファンの吸収を高める食べ物などを管理栄養士の櫻井麻衣子さんにAsk。あわせて櫻井さん考案のレシピもお届け!
Text:YOSHIE ODA
INDEX
1 冬に気分が落ち込みやすくなる2つの原因
#01 メラトニン量が低下し、体内時計が乱れやすくなる
「日照時間とは、直射日光が地表を照らした時間のこと。日中に太陽光を浴びることによって、セロトニンという脳内物質が作られます。セロトニンは“季節のリズム、睡眠・覚醒リズム、ホルモン分泌のリズム”などを調節するメラトニンというホルモンの原料。太陽光が少ない冬は、セロトニンの減少によりメラトニンも作られにくくなるため、体全体の概日リズム(体内時計)※1が変調をきたしやすくなります」と櫻井さん。
また夜間、強い照明を浴びることもメラトニンの分泌量が減る原因となるため、冬の夜コンビニに長時間滞在することは、睡眠の質の低下につながるそう。
#02 セロトニン量が低下し、精神のバランスを崩しやすい
喜びや快楽などを司る神経伝達物質ドーパミンや、恐怖、驚きなどを司る神経伝達物質ノルアドレナリンの働きをコントロールして、精神を安定させる役目があるのがセロトニン。「冬にセロトニン量が低下するとこれらのバランスが崩れ、不安やうつ、パニック症などの精神症状を引き起こします。そのためセロトニンの不足も、冬の落ち込みの直接的な原因といえます」
2 気分の落ち込みを予防する栄養素「トリプトファン」とは?
「神経伝達物質の働きをコントロールして、精神の安定を保つために欠かせないセロトニンは、脳内でトリプトファンという物質から生合成されます。トリプトファンとは、9種類ある必須アミノ酸のうちの1つ。体内で合成することができないので、食事から摂る必要があります」と櫻井さん。
なお、セロトニン自体はクルミやバナナなどの植物に含まれ、ヒトの腸内でも作られるけれど、それらは血液脳関門という脳組織への物質の移行を制限する仕組みにより阻止されるため、ホルモンとして働くには脳内でトリプトファンから合成する必要があるとか。
肉や魚からトリプトファンを効果的に摂る
トリプトファンは、アミノ酸から成るタンパク質に含まれているため、毎日の食事では、肉や魚などのタンパク質が豊富なおかずをしっかり摂ることが大切と語る櫻井さん。ただし、糖不足には注意が必要とか。「糖が不足すると代わりにエネルギー源として使われてしまうため、エネルギー不足を防ぐことも必要です。とはいえトリプトファンは、そばや小麦粉にも含まれているため、通常の食事をしていれば不足することはありません」
「それから、残念ながらトリプトファンを意識的に摂取しても、それだけでうつ病を予防できるわけではありません。昼と夜の区別のある生活や、適度な運動、栄養バランスのとれた食事や十分な睡眠など、トータルな習慣を心がけることが大切です」と櫻井さん。
3 気分の落ち込みを防ぐ食べ物
#01 サバ
「サバの中でも、特にトリプトファンが豊富なのがごまサバ。真サバなどに比べて脂質が少なくさっぱりしているので、味噌煮やタレをかけて食べる調理法によく合います。片栗粉などをまぶして、栄養素が流れ出るのを防いで調理するのもおすすめです」
#02 そば
「エネルギーが不足しているとトリプトファンはエネルギー源として使われてしまうため、主食をしっかり摂取して全体のエネルギーを不足させないことも大切。そばは主食の中でもトリプトファンが豊富な食材です。冬は、リラックスを感じるゆずの香りを効かせて、鴨南蛮そばなどいかがでしょう」
#03 納豆や豆腐など大豆製品
「セロトニンの低下の原因に、女性ホルモンの分泌の減少が関係していることが判明しています。大豆製品に含まれる大豆イソフラボンは、体内で腸内細菌によってエクオールという物質に変換されて女性ホルモンと似た働きをするのですが、体内でエクオールがつくれる人とできない人がいて、大豆製品を頻繁に食べている人の方がその腸内細菌がいる傾向にあると言われています」
また、こまめに摂取するほうがよく、「特に血流を良くする生姜や唐辛子を使用する麻婆豆腐は、寒い季節は定期的に食べたいメニューです」と櫻井さん。
#04 ヨーグルト
「大豆イソフラボンをエクオールに変える腸内細菌がいても、腸内環境によって働きが左右されます。腸内環境を整えるためにおすすめなのが、プロバイオティクスの代表、ヨーグルトです」。プロバイオティクスとは“腸内フローラのバランスを改善することで宿主の健康に有益に働く生きた微生物”のこと。
「冷蔵庫から出したてのヨーグルトでは体を冷やすので、これからの季節はレンジで温めたホットヨーグルトにするとよいでしょう。コトコトと煮た手作りジャムと一緒に食べれば、腸内細菌のエサとなる水溶性の食物繊維を同時に摂取できます」
#05 ごぼう
「腸内環境を整えるため欠かせない食物繊維が水溶性、不溶性ともに豊富なゴボウ。食物繊維はプレバイオティクスという“大腸の特定の細菌を増殖させることなどにより、宿主に有益に働く食品成分”であり、腸内細菌の餌となり腸内環境を整える作用があります」
ごぼうはじっくり煮るとほくほくと柔らかい食感になり旨味もよく感じられるため、煮込み料理がおすすめだそう。
#06 レバー
寒くなってからも外で元気に活動するためには、風邪を引かないことも重要。「風邪の予防で大切になるのが、粘膜の健康維持に働くビタミンAです。レバーにはビタミンAが豊富に含まれるうえ、糖質をエネルギーに変える際に必要なビタミンB1も多いため、疲労回復に役立ちます」
おすすめのメニューは、「体内でビタミンB1の効果を持続させる働きがある栄養素、アリシンが豊富なニラとともに調理するレバニラです」
#07 ネギ
「冬に旬を迎えるネギは胃の消化液の分泌を促すアリシンが豊富。気分の落ち込みを防ぐために栄養バランスの良い食事をしていても、それが吸収できていなければもったいないですよね。食べた物をしっかり吸収できるように胃などの内臓の働きにも注目してみましょう。またネギにはプレバイオティクスであるはオリゴ糖も多く含まれています」
4 管理栄養士・櫻井麻衣子さんおすすめのレシピ~サバの香味ソースがけ
「トリプトファンが豊富なサバとアリシンが豊富なネギを使用した一品です。おつまみにもおかずにもなり、世代を問わず喜んでいただけるメニューです。身が崩れたり皮が剥がれたりするのを防ぐため、焼いているときはあまり触らないようにしてください。ソースは先に作って少し味をなじませるのがポイントです」
材料(2人分)
サバ半身(中骨のないもの)1枚 酒 小さじ1 片栗粉 適量 長ネギ 10cm 生姜 1/2かけ 油 大さじ1/2
調味料A 酢 大さじ1 しょうゆ 大さじ1 砂糖 ひとつまみ
下準備 サバ半身(中骨のないもの)の腹骨を取り除いておく。
- 長ネギはみじん切りにし、生姜はすりおろして調味料Aと合わせておく。
- 腹骨を取り除いたサバ半身(中骨のないもの)を2cm幅のそぎ切りにする。
- 2に酒をふり片栗粉を全体にまんべんなくまぶす。
- フライパンを中火にかけ、油をひいて皮目を先に焼き、焼き色がついたら裏返し中心まで火を通す。
- 4を盛り付けて1をかける。
5 気分の落ち込みを防ぐための4つの生活習慣
#01 昼と夜、メリハリのある生活する
「体内時計の働きを整えるために、セロトニンを活性化してメラトニン不足を防止しましょう。日中、晴れている日には外に出て太陽光を浴び、夜はコンビニなど明るい光のあるところは避けるなど、昼と夜、しっかり区別をつけた生活を心がけて」
#02 適度な運動習慣を身につける
「うつ病の予防としては、毎週1時間程度の運動でも効果的なことが判明しています※2 。無理なく続けられる運動を習慣に」
#03 栄養バランスのとれた食事を摂る
「栄養バランスのとれた食事を摂るだけでなく、よく噛んで食べることが脳の活性化につながります。また、セロトニンの原料として、アミノ酸の一種のトリプトファンが注目されています」
#04 女性ホルモンのバランスを整える
「近年ではセロトニン量の低下に女性ホルモンの分泌の減少が関係し、更年期障害との関わりもある※1ことが知られるようになりました。女性ホルモンのバランスを整えるケアを意識することも、落ち込み予防の一助に」
6 押さえておきたい豆知識~「冬季うつ病」とは?
本記事では、冬うつ=冬ならではの軽度なメンタルの落ち込みを意味していますが、日常生活に支障をきたすレベルの症状がある場合は「冬季うつ病」という病気になるので、医師に相談を。
「冬季うつ病とは、季節性情動障害といううつ病の一種で、少なくとも2年間、特定の季節(冬か夏に発現)にうつ病の基準を完全に満たした場合に診断されます。通常のうつ病では不眠、食欲不振といった症状がみられるのに対し、冬季うつ病では、過眠症、食べ過ぎ、体重増加、炭水化物への欲求、気力低下、引きこもりなど冬眠のような行動が見られるという特徴があります」と櫻井さん。
まとめ
トリプトファンを多く含む食べ物を摂るのとともに、女性ホルモンのバランスや腸内環境、胃の調子を整える食べ物もいっしょに摂るのが得策。また、メリハリのある生活や適度な運動など、食事以外の生活習慣も合わせて整えることをおすすめします。
今回お伺いしたのは、管理栄養士の櫻井麻衣子さん
Profile●総合病院で調理献立に携わった後、痩身外来にて栄養指導に従事する。その後2017年よりフリーランスの管理栄養士として料理教室、食事カウンセリング、レシピ開発など幅広く活動中。「妊娠中のラクうまごはん」「がんばりすぎない離乳食」(マイナビ出版)にて料理を監修。
参考資料
※1 : 厚生労働省 e-ヘルスネット
※2 : The Ameriacn Journal of Psychiatry
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